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海音寺潮五郎さんの『江戸城大奥列伝』が新装版として再出版されています。業界用語の厳密な使い分け方を理解しているわけではないのですが、今回、この『江戸城大奥列伝』は「新装版」と銘打って出版されていますので、いわゆる「絶版」状態から復刊されたわけではなく、「品切れ重版未定」状態から重版されただけなのかなというのが、私の解釈です。 要するに、出版社(この場合は講談社ですが)としては 売れそうもない作品なので出版はしないけれど、 かといって版権は手放さない、 という状態を長く続けたあげく、 そろそろ良い潮時なので再度出版することにした ということらしいのです。 これはあくまで私の勝手な解釈ですが、この通りだとすれば、作品の著者たる海音寺潮五郎さんを侮辱していると言っても過言ではないですね。 何しろ、今NHKで放送中の大河ドラマが「篤姫」で、いわゆる「大奥もの」に属する内容ですから、海音寺潮五郎さんの『江戸城大奥列伝』は 典型的な便乗作品 として、一般の読者には受け取られ兼ねないわけです。 海音寺潮五郎さんの作品が再び出版されて、多くの人の目に留まる機会を得るのは嬉しいことではありますが、こういった誤解を招く状況下に敢えて再出版する出版社のやり方には憤りを覚えますね。本当に良い作品はいつでも読者に提供できるよう、常に品揃えしておく努力を出版社にはお願いしたいものです。 さて、この『江戸城大奥列伝』、当たり前ですが決して便乗作品などではありません。そもそも、海音寺潮五郎さんほどの作家がそのようなことをするはずがありません。その証拠と言ってはなんですが、海音寺潮五郎さんの『孫子』の「あとがき」に次のようなことが書かれています。 最初、孫子を小説に書いてくれと言って来られた時、ぼくはためらった。その前年あたり、孫子ブームがおこり、経営術に結びつけた孫子の現代語訳の書物が出たりなどしていたからだ。はやりものほど軽薄で真実から遠いものはないと、ぼくは考えている。「はやりものはきらいだ」というのが、ぼくの口ぐせだ。 (中略) しかし、編集部はあくまで孫子にしたいという。 「そういうことなら、ぼくは商売ですから、ご注文に応じて調製します。全力をつくしてやってみましょう」と、ぼくはおれて、引受けた。 これは海音寺潮五郎さんの『孫子』が執筆される経緯について書かれたものですが、 はやりものはきらいだ というところなど、いかにも海音寺潮五郎さんらしいですね。まぁ、要するに今回再び出版されることになった『江戸城大奥列伝』が便乗商品でないことさえ分かってもらえれば、それで良いのです。 ところで、この『江戸城大奥列伝』ですが、私なりのひとつの注目点は、この作品を読むと6代将軍・家宣が目の覚めるような名君に思えるところです。もちろんこれは、5代将軍・綱吉という、どうしようもない暗君との比較でそう感じるだけなのかもしれませんが、家宣が生類憐み令を綱吉の死後即座に廃するところなどは、喝采を送りたい気分でした。 ここまで感情移入してしまうのは、海音寺潮五郎さんの書き方の上手さがなせる技なのでしょうね。
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