海音寺潮五郎『覇者の條件』

海音寺潮五郎さんに『覇者の條件』という作品があります。これは昭和43年から昭和44年にかけて、「実業の日本」という雑誌に『争覇と治国』という題で連載された内容を収録しており、単行本として昭和51年に新潮社から出版された際に、『覇者の條件』と改題されたものだそうです。「争覇と治国」の他に、座談会で語った内容をベースにした「平将門とその時代」という作品もあわせて収録されています。

巻末にある海音寺潮五郎さんの「あとがき」は、
 昭和五十一年九月八日
に書かれたと記されており、海音寺潮五郎さんが"引退宣言後"を行った後、晩年中の最晩年であることがわかります。
その「あとがき」に非常に印象的な、というよりも、私にとっては痛ましいとも思える文章があるのですが、

私は近年、史伝『西郷隆盛』を書くことに打ち込んでいまして、持ち時間の少なくなっている身ですから、余事に一切かかずらいたくないのですが、義理のある筋から頼んで来られますと、ことわることが出来ません。引受ければ、大変な時間のロスになります。
(中略)
若い編集者にはわからないことでしょうが、残り時間を計算しながら生きている老作家には、実に痛いのですよ。西郷伝の出来上がるまでは、いろいろなことを持ちこまないでいただきたいと、この機会にお願いしておきます。


と、海音寺潮五郎さん自身の心情を述べているのです。そして、この『覇者の條件』が、
 大変な時間のロス
の上に出来上がった作品だというのです。
ご存知の通り、海音寺潮五郎さんの西郷伝は未完のままに終わったため、この時間のロスがなければ、少しでも西郷伝の執筆が進んだかもしれないことを思うと、せめてもの慰みにこの『覇者の條件』を読まずにはいられないというのが、海音寺潮五郎ファンとしての私の心境です。

さて、前置きが長くなってしまいましたが、この『覇者の條件』
 今日の経営者の参考になるような、武将の伝記を頼みたい
という雑誌社の注文に応じて執筆されたものだそうです。その目的を果すために、海音寺潮五郎さんが適切と思う歴史上の人物を選出していますが、それらは
 平清盛
 源頼朝
 北条泰時
 足利尊氏
 北条早雲
 武田信玄
 織田信長
 徳川家康
 野中兼山
 細川重賢
 上杉鷹山

といった面々です。後半の3人は、その他の面々と並んでいるのが少し違和感がある気がしますが、これは連載を進めていくうちに、

経営者の参考にするのだったら、むしろ江戸時代に名君、賢相といわれた人々の伝記の方が適当なのではないかと気づきました

とのことで、こういった人選になったのだそうです。

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