海音寺潮五郎応援サイト 〜 塵壺(ちりつぼ) 〜

アクセスカウンタ

zoom RSS 文豪のエロスを読む

<<   作成日時 : 2009/04/12 15:45   >>

ブログ気持玉 0 / トラックバック 0 / コメント 0

現在発売中の「文藝春秋 SEPCIAL 2009年季刊春号」に海音寺潮五郎さんの作品が紹介されていました。ご覧になった方もいらっしゃるかもしれませんが、『二本の銀杏』です。掲載されていたのは、「特集 ジャンル別・この十冊」という箇所なのですが、なんと『二本の銀杏』「文豪のエロスを読む」というジャンルで選出されていました。これはおもしろい!

海音寺潮五郎さんの『二本の銀杏』については、過去に何度もこのブログで取り上げています。司馬遼太郎さんをして「名作」と言わしめた海音寺潮五郎さんの代表作ですが、「エロス」という言葉で括られてしまうのは作者として少し不本意かもしれませんね。まぁ、海音寺潮五郎ファンの私としては、こんなささやかな場所であっても、海音寺潮五郎さんの作品が紹介されるのは喜ぶべきことと捉えています。

ところで、海音寺潮五郎さんは小説に何らかの色気が必要だとしても、露骨にセックスシーンを描くのは好ましくないと主張しています。これについては『史談 切り捨て御免』に収録の「世相直言 小説家廃業の気構え」に書かれているので、詳しい内容に興味がある方はこちらをお読みいただきたいですが、『二本の銀杏』には様々な男女関係が登場しますので、当然それなりのシーンはあるわけですが、それを直接的に表現せずにいて、なおかつ読者を魅力・魅惑してやまないところは海音寺潮五郎さんの筆力のなせる技と言えるでしょう。

海音寺潮五郎さんは小説中でのストレートな性的表現は好ましくないとしながらも、それを制度面で規制するのはもっと好ましくないと述べています。これは戦時中に日本で行われていた言論統制の恐ろしさを海音寺潮五郎さん自身が直接経験していることから出た発言です。海音寺潮五郎さんによれば、

 言論の自由、表現の自由の尊さと、統制の苦しさは、一般の国民にはわからない。体験した者でなければ、身にしみてわからないのだ、今の日本で言えば、戦争中と占領時代に、演説や講演や文章によって世間に語りかけることをいつもしていた政治家、ジャーナリスト、評論家、学者、作家等だけが、実感をもってわかるのだ。従って、戦後にスタートした人々には、知識としてしか、観念としてしか、わからないのである。
 統制のおそろしさは、ひとたび統制がはじまると、無限に強化され、無限にワクが広げられて行くところにある。

とのことです。
そんな恐ろしさの一例として、同じく『史談 切り捨て御免』の中で海音寺潮五郎さんは次のよな体験談を紹介しています。

 人間はあさましいもので、勢いが次第に進むと、国民の間に当局の取締りをもっと強化せよと言い出す者が出て来る。昭和十三年に七月はじめからぼくは『茶道太閤記』を毎日新聞(当時東京日日)に連載した。その年七月十二日がちょうど日支事変勃発の一周年記念日だったので、当局はその日から何もかも一斉にきびしくすることにして、世間はおそろしく緊縮した。作家らも警戒して、恋愛なぞ一切書かなくなった。
 ぼくは小説に必要なかぎりは書くべきであると思ったから、はばからず書いた。非難は同業者からおこった。
「海音寺は英雄を書くといわんばかりの標題をかかげて、エロを書いている」
と、そのグループの機関誌で、毎号論難しはじめたのだ。ぼくがエロ作家と言われたのですよ。呵々、呵々。言論統制がいかにおそろしいものであるか、よくわかるであろう。
 その頃、故村松梢風氏が、雑誌だったか、新聞だったかで、ぼくをほめてくれた。
「作家が皆おびえ切って、誰も女を書こうとしないのに、ひとり書いている。観念的で、一向上手ではないが」
という趣旨であった。へたくそではあるが、勇気があるという次第だ。呵々、呵々。へたな作家が勇気を称讃されるような世の中になってはこまるではないか。


ということです。何だか、恐ろしい話なんだか、面白い話なんだかわからないことになってしまいましたが、ともかく、海音寺潮五郎さんの『二本の銀杏』、お薦めですよ。
二本の銀杏〈上〉 (文春文庫)

テーマ

関連テーマ 一覧


月別リンク

ブログ気持玉

クリックして気持ちを伝えよう!
ログインしてクリックすれば、自分のブログへのリンクが付きます。
→ログインへ

トラックバック(0件)

タイトル (本文) ブログ名/日時

トラックバック用URL help


自分のブログにトラックバック記事作成(会員用) help

タイトル
本 文

コメント(0件)

内 容 ニックネーム/日時

コメントする help

ニックネーム
本 文
文豪のエロスを読む 海音寺潮五郎応援サイト 〜 塵壺(ちりつぼ) 〜/BIGLOBEウェブリブログ
文字サイズ:       閉じる