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help リーダーに追加 RSS 海音寺潮五郎『蒙古の襲来』

<<   作成日時 : 2008/04/25 21:20   >>

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NHK大河ドラマ「篤姫」が好調なようです。ドラマとしての描き方の問題で、「史実を歪めすぎているのではないか?」という批判もチラホラと聞こえてきますが、まずは日本の歴史に興味を持つきっかけとしてのNHK大河ドラマの存在意義は私も認めます。そもそも、私が歴史好きになったのは、同じくNHK大河ドラマの「おんな太閤記」を見て以来のことです。この大河ドラマは、日本国内での歴史物としての地位があまりに高いため、数多くの便乗ネタが群がり出てきます。観光地に客を誘致するためのネタとして活発に利用されるのはもちろんのこと、原作以外の関連書籍が多数出版されるのは、みなさんも目の当たりにされていることと思います。あろうことか、海音寺潮五郎さんの大長編史伝『西郷隆盛』まで、「篤姫をよりよく理解するためのサブテキスト」という帯を付けられてしまうような有様です。

しかし、これは全く本末転倒で、
 海音寺潮五郎さんの大長編史伝『西郷隆盛』を読んで、そのままでは今ひとつ理解できない日本史初心者の方々は、まずは大河ドラマでも見て勉強して下さい
というのが本来の言い方です。
繰り返して言いますが、海音寺潮五郎さんの大長編史伝『西郷隆盛』は、けっしてNHK大河ドラマの便乗本ではありません。

この『西郷隆盛』全9巻をはじめ、海音寺潮五郎さんの作品は『悪人列伝』の復活以来、続々と再出版が続いています。ちょっとした海音寺潮五郎ブームといった感もあるのですが、こんな極めてニッチなブームにさえ、便乗の動きが出てくるところに日本の出版業界の特異な体質を嗅ぎ取ることができそうです。
その便乗本というのは、河出文庫から出ている『蒙古の襲来』『大化の改新』です。今日は『蒙古の襲来』を取り上げます。

この作品は昭和34年に「現代人の日本史」シリーズとして出版されたもののひとつです。この「現代人の日本史」というのは、当時の著名な作家(小説家)たちが日本史の各時代をそれぞれ分担して執筆した全18巻という膨大な作品群のことだそうで、海音寺潮五郎さんはそのうちの2冊『大化の改新』『蒙古の襲来』を執筆しています。

企画そのものは非常にユニークで、これを案出し、実現した当時の出版社は行動力に富んだ志の高い組織だったことが伺われます。しかし、時代は下り、現代に至って、
 超ニッチ海音寺潮五郎ブーム
に便乗して『蒙古の襲来』『大化の改新』のみを文庫化して再出版するに至っては、すっかり出版社としての志を失ったと批判されても反論の余地はないでしょう。(今日は少し厳しいことを言っているかな。。。)
まぁ、ともかく、これまで埋もれてほとんど日の目を見ることの出来なかった海音寺潮五郎さんの貴重な作品が読めるのは喜ばしいことですので、その恩恵を純粋に享受することにしましょう。

さて、海音寺潮五郎さんの『蒙古の襲来』ですが、ご存じの通り、名作『蒙古来る』を執筆した実績を買われて、このテーマを担当したとのことです。この作品では単に「元寇」を語るのみならず、北条執権政権の施政ぶりや、鎌倉時代に起こった新仏教の有り様など、これまで海音寺潮五郎さんの作品中ではあまり見られなかった話題に触れることができるのが非常に新鮮な感じがした、というのが率直な印象です。

この『蒙古の襲来』で非常に面白く読んだのは、蒙古軍の戦闘法についての海音寺潮五郎さんの解釈です。良く知られている通し、当時の鎌倉武士達は蒙古軍との戦闘で非常に苦戦しました。それは
 蒙古軍が採用していた「集団戦法」が非常に優れていたからだ
というのがよく耳にする説明ですが、海音寺潮五郎さんの理解はそんな単純なものではありません。

蒙古軍がかくも無敵であったのは、一つにはその戦闘法が当時の各国の戦法の意表に出るものであったためだ。この時代は、蒙古草原に居住する諸民族をのぞく国々は、アジアでもヨーロッパでも、一騎討の戦闘法であったのに、蒙古草原の民族らの戦闘法は集団戦法であった。
これは普通考えられているように、蒙古軍の戦法が進歩していたのではないと、ぼくは思っている。彼らはまだ野蛮未開の段階にあったから、古い戦闘法を墨守していたのだ。野蛮人に勇気はない。一見勇気ありげに見えても、それはただ凶暴性があるにすぎない。勇気と名づけられるほどのものには、かならず生物の本能である恐怖心を抑圧制御する意志が必要だ。野蛮人は動物と同じくそれがないから、群を離れることができず、集団戦法とならざるを得ないのだ。未開野蛮な段階にいた蒙古人は、この戦法しかできなかったのだ。一方、一騎討の戦法は、名誉と礼儀を重んじなければならないから、大いに知性的勇気が必要だ。相当にその民族の文化が進まなければ生じようはずがない。


こう説明されると「おぉ!なるほど!!」という感がしきりですね。蒙古軍がいかに野蛮であったかなど、この解釈については作品中に色々と補足説明がありますので、興味がある方は一読されることをお薦めします。
蒙古の襲来 (河出文庫 か 15-1)

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